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Appleを訴えた中小企業の行動に思う、受託会社の心得


2020/07/18 

「日本の中小企業が訴えたアップルの“横暴”の内幕」というダイヤモンド・オンラインの記事が波紋を呼んでいる。

アップルの1次サプライヤーとして、知る人ぞ知る日本の中小企業がアップルを訴えた。

サムスン電子のようにビジネスの競合相手としてではなく、パートナーである1次サプライヤーという立場で訴訟の“反旗”を翻したのは、世界でも異例の事件だ。それも、全世界にまで影響が波及するインパクトをはらんでいるのだ。

(以下、同記事より抜粋)

訴えを起こした島野製作所とは、電源アダプタのコネクタ部分などに使われる「ポゴピン」というピンの専業メーカーだ。規模は小粒の非上場企業だが、技術力の高さは折り紙つき。米半導体大手インテルや韓国サムスン電子などを取引先に持ち、知る人ぞ知るアップルの1次サプライヤーでもあった。

その島野が今年8月、アップルを相手に独占禁止法違反と特許権侵害で訴えた。訴状から島野の言い分を要約すると、以下の通りだ。

アップルから依頼を受けて新製品用のピンを開発。そのピンの増産を何度も求められ、量産体制を構築した。ところが、それから約半年後に突如、ピンの発注量が激減。実はこのとき、アップルは島野との“合意”を無視するかたちで、別のサプライヤーに代替ピンを製造させていた。しかも、これが島野の特許権を侵害していた。

取引再開を求めたが、アップルは値下げを要求。やむなくその条件をのむと、さらにリベートの支払いも必要だと言ってきた。アップルが持つ在庫ピンの購入時価格と、島野が値下げしたピン価格の差額分に、在庫ピンの数量をかけて算出した約159万ドル(当時、約1億6000万円)を払えという。これは実質的に、決済が終わった売却済み製品の値下げの強要で、不当なリベート要求である。

これらに伴う開発費や設備投資、アップル向け製造ラインの休止、不当なリベートなどの損害賠償を求める。また、特許権侵害の対象であるアップル製品の電源アダプタと、それが同梱されているノートパソコン、MacBook ProとMacBook Airの日本での販売差し止めも請求する。以上が島野の主張の概要だ。

「長年のパートナーを訴えるのは心苦しいが、アンフェアは正すべき」と、島野の島野守弘会長は提訴に至った思いを吐露する。島野側の溝田宗司弁護士は「この訴訟が、優れた技術を持つ日本の部品メーカーが正当な利益を受ける端緒となることを期待する」と語る。

業界の巨人を訴えざるを得なかった中小企業の思い

記事によると、このようなアップルの“手口”については、かねてよりサプライヤーから懸念の声が上がっていたらしい。 私自身もアップル製品のファンだけに、なんともやるせない気持ちである。

島野にとって許せなかったのは、値下げ圧力もさることながら、知恵と心血を絞って創り上げたオリジナルの技術やノウハウが、アップルを通じてアジアなどの他サプライヤーに流出され、単なるコスト勝負に引きずり込まれてしまったことだろう。モノづくりの技術的ハードルの“解決策”を、率先してアップルへ提供してきた企業に対する仕打ちとしては、あまりにもひどい話である。

島野が長年のパートナーシップを解消し、波紋を巻き起こしてまで訴訟に踏み切ったのは、
「長年のパートナーを訴えるのは心苦しいが、アンフェアは正すべき」
「この訴訟が、優れた技術を持つ日本の部品メーカーが正当な利益を受ける端緒となることを期待する」
との思いに駆られたからだという。

その思いと勇気ある行動には、心からエールを送りたい気持ちである。

大口1社に頼る経営は危険

翻って自分の身に当てはめてみると、万一発注元からそのような仕打ちをうけた場合の準備はできているだろうか?

Web受託業界は過当競争が厳しい。単なる制作やデザインだけの仕事は競争も激しく、海外の業者が日本市場に進出してきていることもあり、単価は下落する一方である。良質なテンプレートや無料のHP制作サービスなども多数出てきている。景気の劇的な上昇が見込めないこの時代、クライアントとしても、制作コストは少しでも安く上げたいところであり、ぎりぎりまで値切りたい、というのが本音であろう。

そんな時代、受託会社としては、今現在大口のクライアントの仕事をしているからといって、うかうかしてはいられない。取引額が大きかろうが、長年おつきあいしていようが、他に条件のいい会社や手法が見つかれば、突然「明日から取引いたしません」と言われても全然おかしくないのだ。

島野がアップルへの訴訟に踏み切れたのは、なんといっても

「アップルとの取引がなくても大丈夫な経営基盤を確立している。」

という経営上の対応ができていたことが大きな要因だと思う。

この仕事がなくなると社員を食べさせて行けない、という状況では、いくら発注元が横暴でも、その意志に逆らうことは難しいだろう。

だからこそ、大手1社からの発注に依存した経営、というのはとても危険なのだ。

当社も大口のクライアントはもちろん大事にするが、日頃から新規のお客様との出会いを増やす機会は決して怠らない。どんなクライアントから「明日から取引しません」と言われても大丈夫な「備え」は常に必要なのだ。

盗まれないための、究極の対策とは?

技術やノウハウ、ひいては、仕事を他社に盗まれないためには、どうしたらいいのだろう?

今回の訴訟を見る限り、たとえ権利関係が契約書に書いてあったとしても、
パートナー企業との対等な関係を築く!、などときれいごとを言っていても、
「発注側」と「受け側」という関係でいる限り、「発注側の力」は絶大である。

発注するかどうかの決定権が発注側にある限り、受け側はどんなにがんばっても「対等」にはなり得ず、常に何かを「盗まれるリスク」を覚悟しておいた方がいいのだろう。

そもそも自分たちのようなWeb制作の仕事の差別化要因は、技術やデザイン、表現のためのアイデアやキャッチコピーなど、「目にとめてもらえる~売れるための表現」に過ぎず、目で見えるものである以上はいずれマネされるもの、盗まれるもの、という前提で考えていないといけないのである。

・常に顧客を唸らせるような、いい提案を産み続けているか?
・ありきたりの仕事でなく、その顧客だけのための「何か」を提供しているか?
・顧客が期待する、あるいはそれ以上の結果を出せているか?
・顧客社内や他社にはない当社だけの「価値」を提供できているか?
・・・
などの、顧客にとって特別な「何か」を提供できなくなったら、終わりである。

男女関係のそれと同じで、多かれ少なかれ、どんなクライアントでも、100%現状のパートナーに満足している、というケースはとても少ない。
コスト要因であれ、品質であれ、それ以外の要因であれ、顧客の「心」がいったん自社から離れたら、その時点で終わりの始まりなのだ。

。。。などと悶々としているうちに、昔見たルパン三世の映画の名シーンがふと頭に浮かんだ。

銭形「くそぉ、一足遅かったか。ルパンめ、まんまと盗みおって。」

クラリス「いえ、あの方はなにも盗らなかったわ。私のために戦ってくださったんです。」

銭形「いえ、奴はとんでもないものを盗んでいきました」

クラリス「…?」

銭形「あなたの心です」

結局、我々のような仕事では、顧客の「心」を盗み続けることしか、対策はないのかもしれない。。。